もし家を建てるなら
2024年1月1日に発生した能登半島地震により被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。あまりに大きな被害と情報の錯綜、課題の多い支援活動や復旧作業に心が痛みます。
愛知県、静岡県を含む東海地方もいつ大きな地震が来てもおかしくない状況で、今回の地震によるいかがわしい地震対策の営業がはびこることも懸念されます。特に木造の戸建住宅では、住み手の知識不足に付け込んだほとんど実効性や裏付けのない補強工事を行う業者もありますので、今回は、2023年7月31日に掲載した地震対策に関わる記事を加筆修正し再掲いたします。
ご参考にしていただければ、幸いです。
木造住宅の地震対策として、耐震、免震、制震という複数の手段があります。これらは、地震の被害をどれだけ抑えることができるかに関わる地震対策の重要な手段の種類ですが、それぞれ地震の揺れに対する考え方が異なります。
「耐震」は建築物をより固くすることで揺れにくくさせ、「免震」は地盤と建物を切り離すことで揺れを伝えにくくし、「制震」はダンパーなどの装置で揺れの力を吸収、減少させようとするものです。
今回は、在来(軸組)工法で建てる木造住宅の地震対策に関わる耐震、免震、制震について、それらの違いや耐震性の考え方についてわかりやすくまとめてみました。
耐震・免震・制震の違い
建物の揺れを全くの0にはできなくても、一定レベル以下の揺れに抑制し建物の倒壊や損傷を抑え、室内にいる人の安全を守るための方法として、耐震、免震、制震という様々な考え方が生まれてきました。
耐震とは
建物の地震対策としてもっとも一般的な手段が耐震性の向上です。その名の通り、地震の揺れを建物自体がグッと受け止めて耐える方法です。
木造よりもRC造(鉄筋コンクリート造)の方が耐震性が優れているというお話はよく聞きますが、近年の木造建築物はこれまでの大地震にも十分な耐震性を確保できる技術が確立されているので、工法の違いによる単純比較には意味がありません。
昔からある耐震工事は、柱と梁などの部材からなる四角形の面内に設置する「つっかえ棒」の様な斜めの材料「筋交い(すじかい)」です。しかし、現在では1996年の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)以降の大きな地震による被害を踏まえ、壁面や床面に張るパネル(面材)や耐震金物による補強が普及しており、適切な耐震補強をした場合は、2016年の熊本地震の様に震度6強の揺れが続けて2回発生しても倒壊や損壊しない強度の建物にできることが証明されています。
柱、梁、筋交いに取り付けた耐震金物
免震とは
建物の基礎より上の部分(居住空間)と基礎の部分を構造的に切り離し、地震の揺れが基礎よりも上部(居住空間)に伝わりにくくした構造です。
物理的に切り離すわけではなく、基礎と建物上部との間(接合部)にダンパーの様な装置を設置することで、接合部の下で基礎だけが転がる様に動き、地震の揺れを建物上部に伝わりにくくしています。
大掛かりな専用装置が必要となり、コスト面では耐震や制震よりも高額になる傾向があります。
制震とは
建物の縦部材(柱)と横部材(梁、土台)の間に「つっかえ棒」の様にダンパーの役目をする装置を設置し、地震の揺れを吸収することで建物への被害を軽減します。ただし、制震装置だけで耐震等級(建物の耐震性を示す国の基準)2以上を取得した建物はまず見かけません。それは、以前は耐震や免震による耐震性を確保した上で更に付加する補助的な装置というマイナーな存在だったためと思われます。しかし、現在では、建築基準法で定める壁の強度基準「壁倍率」の指定を受けた制振装置も開発されており、建物の耐震性を考える上で耐震や免震と並んだもう一つの選択肢になりつつあります。
コスト比較は不要
気になるコストですが、結論から言うと3つの対策のコストを比較する意味はありません。なぜなら、地震対策はまず耐震工事による耐震性能の確保が大前提となり、その上で免震か制震を付加する事になるためです。
耐震工事を実施した上で、免震か制震をどちらを採用しようか悩んだ際に知っておいた方がいい費用について、以下に解説します。
一般的な耐震工事の費用
在来(軸組)工法の木造住宅の耐震性向上する一般的な手段は、上記に述べた「面材」や「耐震金物」によるものと補助的に数カ所設置する「筋交い」です。この内、床と内部の壁に張った面材は、そこに設置する仕上げ材のための下地材として住宅建築に欠かせない部材なので、耐震用の費用としてはカウント不要ということになります。すると耐震費用は、数カ所だけ使う筋交いと部材同士の接合部に設置する耐震金物とその工事(設置)費だけとなり、耐震工事として掛かる費用はせいぜい数十万円です。
免震工事の費用
次に免震ですが、皆さんは免震住宅にするなら上記の様な一般的な耐震工事を割愛しますか?当然ですが、しませんよね?なぜなら、いくら免震住宅にしてもその免震機能が働くための震度に達するまでの揺れに耐える住宅でなければ、免震する前に倒壊や損壊してしまうからです。震度5強以上で初めて機能する免震装置だとした場合、震度5弱までは(免震装置が働かないので)建物自体の耐震性で耐える必要があるということとなり、その為には、先に述べた耐震工事が欠かせません。
とすると、一般的に100万円以上(高額な場合は400万円以上!?)は掛かると言われる免震対策の費用は、他の耐震手段と比較するのではなく、一般的な住宅建築費に単純に付加(プラス)される費用と言えます。
制震工事の費用
最後の制震ですが、こちらも現実的には制振装置だけによって耐震性能を確保した住宅の例がほとんどないので、制振装置を設置した住宅は、耐震性をちゃんと考慮した一般的な住宅建築工事に制震工事費用が付加されると考えるべきです。
制震装置の設置による費用追加は、坪当り1~数万円と言われますが、装置による価格差が大きいので注意が必要です。また、制振装置は種類が多くその効果が不明瞭または限定的な製品もあります。また、建築基準法に定める壁倍率の指定を取得したものとしていないものがありますが、どちらが優れているということではなく、どの様な揺れに対して効果を発揮させたいかによって選択の余地があります。
耐震、免震と比べ、制震に関する知見はまだ未知数なところも多く、専門家であっても様々な意見があり、制振装置を採用するのであればよほど慎重な検討が必要です。
【補足】
免震と制震を防災対策の付加工事として比較する場合でも、現在のところは免震工事の方が高額で、コストを比較する必要性は高くないと言えます。
これだけは絶対に避けるべき地震対策工事
取り急ぎ、「これだけは絶対ダメ!」という地震対策工事をお伝えします。
避けるべき地震対策工事
- 小屋裏(屋根裏)の金物による補強工事
- 床下の金物による補強工事
これらの補強工事は、木造住宅の基本的な耐震知識の中ではほとんど無視される部位(小屋裏、床下)への工事なのでほぼ無意味です。なぜなら、これまでの多くの地震被害の建物調査で、小屋裏や床下の強度は、地震による被害にほとんど影響しないことが明らかになっているからです。
詳細は、ぜひ構造計算をしっかり行う建築会社などでぜひご確認ください。
アイジースタイルハウスの住宅の耐震性
木造住宅における地震対策はまず耐震による建物強度の確保です。現在の建築基準法では、建物の耐震性能を耐震等級1~3で表し、等級3が最高ランクでアイジースタイルハウスは、この耐震等級3を全棟で実現します。
ただし一点注意があります。それは、同じ耐震等級3であっても等級取得のためにした計算方法によっては、建物強度が1ランク下の耐震等級2と変わらない建物の場合もあるということです。
これについては、ご興味がありましたらコチラのブログもぜひご覧ください。
アイジースタイルハウスの住宅の耐震性については、コチラからご確認いただけます。
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