もし家を建てるなら
断熱性能は省エネ性能にも関わる重要な要素です。しかし、それ以上にそこに住む人の健康と快適性、そして人と建物の寿命にも関わる要素であることの方がより重要です。従って、断熱性能を正しく理解することはとても大切なことなのです。
用いられる用語が多く、公的には採用しなくなった用語が実務では今も使われいたりして分かりづらいと言うこともあり、今回は、断熱性能を考える上で抑えるべき用語とその解説をして行きます。
それぞれの用語は、次の様な視点の違いがあります。
1.窓のガラスや枠の様な素材ごと場合
2.屋根や壁の様な部位ごとの場合
3.建物自体を一つの対象として見た場合
この様に考えると、似た用語も理解しやすいかも知れません。
1.素材の場合
用語:熱伝導率
記号:λ(ラムダ)
単位:W/(m・K)
意味:素材の熱の伝わりやすさを表します。
素材の裏表に1℃の温度差がある場合、厚さ1mの材料の中を面積1㎡あたり1秒間に伝わる熱量です。
値が小さいほど熱が伝わりにくく、断熱性能が高くなります。
例えば、天然木材0.12、コンクリート1.6、鋼55なので、天然木材はコンクリートの13.3倍断熱性能が高いと分かります。ただし、厚みが同じ場合の話しです。
つまり、その素材が使用された製品(サッシなど)自体の性能では無い事に注意してください。
2.屋根、壁など建物の部位単位の場合
用語:熱貫流率
記号:U(以前はK)
単位:W/(m2・K)
意味:屋根、壁、サッシなど建物の部位ごとの熱の伝わりやすさを表します。
室温と外気温に1℃の温度差がある場合、面積1㎡あたり1秒間に伝わる熱量です。
値が小さいほど熱が伝わりにくく、断熱性能が高くなります。
先の「熱伝導率」との関係は、以下となります。
3.建物全体の場合
用語:外皮平均熱貫流率
記号:UA(ユーエー)
単位:W/(m2・K)
意味:建物の外皮である外壁、屋根、床、開口部などからの、熱の逃げやすさを表します。
建物内外の温度差が1℃の場合、部位ごとの熱損失量の合計を外皮等の面積の合計で割った値。
値が小さいほど熱が逃げにくく、断熱性能が高くなります。
UA値が対象とする熱の損失箇所
UA値の他、下記の用語も重要です。
用語:冷房期の平均日射熱取得率
記号:ηA(イータエー)
単位:W/(W/m2)
意味:冷房効率を表します。
冷房期に、部位ごとの日射熱取得率に面積、方位係数を乗じた値を住宅全体で合計し、外皮等面積の合計で割った値。
値が小さいほど日射が入りにくく、冷房効率が高くなります。
ηA値が対象とする熱の流入箇所
4.その他
用語:熱損失係数
記号:Q
単位:W/m2K
意味:建物からの熱の逃げにくさをあらわします。
室内外の温度差が1℃の時、建物全体から1時間に床面積1㎡あたりに逃げ出す熱量表します。
値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネ性能が高いといえます。
用語:夏季日射取得係数
記号μ(ミュー)
単位:無し
意味:夏期における日射の入りやすさをあらわします。
値が小さいほど日射が入りにくく、冷房効率が高くなります。
※Q値、μ値は、平成11年(1999年)次世代省エネ基準までの外皮性能を表す指標でしたが、平成25年(2013年)改正省エネ基準からは、それぞれ外皮平均熱貫流率(UA値)、冷房期の平均日射熱取得率(ηA)に変更されています。
用語:相当すきま面積
記号:C
単位:㎠/㎡
意味:延床面積当たりの隙間面積で、建物の隙間の度合いを表します。
値は小さいほど隙間が小さく、気密性が高いといえます。
この指標は、平成25年(2013年)改正省エネ基準から姿を消しました。
しかし、建物の隙間の少なさは室内の温熱環境にも影響する為、建築業界では現在でも建物性能を示す値としてHPなどに記載されている場合があります。
設計段階での計算ができない指標の為に削除されたと思われますが、建築後は機械的に測定が可能なので、実際の建物で測定した値を示せることが特徴です。
削除前の基準値としては、北海道などの寒冷地で2.0㎠/㎡、温暖な地域では5.0㎠/㎡が示されていますが、近年の高気密住宅としての目安は1.0㎠/㎡が共通認識です。
5.最後に
断熱性能を考える上で、知っておくと良い指標のご説明をしてきました。
選定したこれらの指標だけでも、実際に計算するのは大変です。
我が家の建築計画で断熱性能を考える時には、これらの指標の基準値を知っておきそれよりも大きいか小さいかは一定の判断材料になります。
ただ、大切なのは材料も部位も建物も、設計通りの施工がされている事が前提です。
せっかく高性能な断熱材でも、施工不良によってほとんど機能しない場合があるからです。
断熱材の施工不良は、大切な我が家に結露を発生させシロアリやカビを寄せ付け、建物の劣化を急激に早めます。
したがって断熱工事を検討する際は、これらの指標を参考にしつつ、確実に施工できることを確認することが大切です。