もし家を建てるなら
現代の住宅は、外壁内部の決められた位置に「防湿層」と呼ばれる内部結露を防止するフィルムが設けられているのが一般的です。
しかし、これが機能せず、室内の水蒸気が防湿層で止まらず、外壁内に侵入して内部結露を起こしている場合があります。
冬になると、朝、窓ガラスの結露を拭くことが恒例行事となっている方も多いと思いますが、これと同じ症状が、外壁の内部でも起きているお家が一定の割合で存在しているのです。
内部結露は、木造建築物の柱や梁などの骨組みや合板パネルの腐朽やカビの発生など、建物と住まい手に悪影響を及ぼすので、効果的な対策を打つべき問題です。
意外に思われるかも知れませんが、この内部結露は比較的新しい住宅で発生しており、建物の構造的な問題と考えられます。
一体、どうしてこの様な現象が起こるのでしょうか?
1.結露の仕組み
外壁が結露を起こす仕組みは単純です。
冬季の結露についてご説明します。
日常生活の様々な活動により、室内には水蒸気が発生しますが、その水蒸気は室内の温かい空気中に気体として存在しています。しかし、温度の低い外壁に近づく室内空気は短時間に冷やされることで、水蒸気が気体でいられなくなり水滴となって姿を現したものが結露です。
問題は、この結露が外壁内のどの場所に発生するのか?であり、これが、建築会社や設計士が計画した場所ではないと言うことです。
ところで、昔の家では結露の問題など無かったことをご存知でしょうか?
昔の木造建築物は、断熱材など使わないのが当たり前で、断熱や気密など気にしない造りでした。
そのため、例え外壁内で結露が発生したところで、隙間だらけのスカスカの壁内の通気によって乾いてしまい、内部結露が問題にならなかったのです。
ところが、1980年代から断熱材が普及しだしてから、内部結露が大きな問題になります。
図の様に、外壁内に室内の水蒸気が侵入するのは断熱材がなかった昔の建物と同じですが、断熱材が入った現代の外壁では、水蒸気は通気の無い断熱材の中を移動しようとするので、その水分が断熱材にジワジワと溜まるところが大きく異なります。
外壁の温度は、室内側から外部に向かうにつれて下がります。すると、先の結露の仕組みにより、一定の温度では気体として含まれていた水分が、温度の低下とともに水滴となって現れてくるのです。(上の図の水滴の絵の部分)
これが、一般的な結露の仕組みです。
2.断熱材を入れた外壁の結露対策
建築業界は、断熱材を入れた外壁の結露対策として、以下の様に防湿層(下図の「防湿フィルム」)を設け、反対側には通気層を設けました。
防湿層には防湿フィルムと言うビニールの様なシートを張り、通気層は断熱材側に防水透湿フィルム(図の青色一点鎖線)を張ることとしました。
似たような名前のシート同士ですが、機能は真逆です。
防湿フィルムは、水蒸気の様に極微細(0.0004μm(1μmは1,000分の1ミリ))な水分さえ通さないものですが、防水透湿フィルムは、霧雨(0.1ミリ)や雨(2ミリ)の様に大きな水滴は通さず、極微細の水蒸気だけ通します。
この仕組みによって、防水透湿フィルムを通過した水蒸気は、晴れて通気層の空気の流れによって建物外へ排出され、メデタシ、メデタシ。となるハズでした。
3.机上の空論を現場が笑う
ところが、予想に反し、上の仕組みによる建物でも結露は発生してしまうのでした。
写真は、断熱材を撤去した外壁内部の様子。通気層に当たる位置には合板が張られ、通気層はこの合板の屋外側にあり、合板の室内側に大量のカビが発生しています。
内部結露の発生には、2つの理由が考えられます。
まず、防湿層となる防湿フィルムが計画通りに施工されず、予定外の隙間が発生し、室内の水蒸気が外壁内部に侵入するというもの。
予定外の隙間とは、例えばこんな所です。(↓)
この写真では、本来タッカーで柱に留められる断熱材を包む防湿フィルムの耳が外れてしまい、柱と断熱材の間に隙間を作ってしまっています。
わずかと思える施工不良も、住宅と言う大きな面積の外壁への施工では複数個所で発生していることが考えられます。
また、壁の中には、各種の配線、配管、コンセントボックスなど、断熱材の正常な施工を邪魔するものがたくさんあります。時間に終われる様な現場では、工期に影響しないよう断熱材を丁寧に施工しないと言う建築会社は実際に存在するものです。
ところで、こんなわずかなことで、建物全体に影響する様な結露になるのか?と思うかも知れません。
実は、過去に国が行った省エネ施策のためのR2000という計画による石こうボードの水分の透過性の実験で、次の様な結果が出ています。
図③
これは、1㎡の石こうボードで、穴をあけずそのままの状態と、2cm角の穴を開けた状態で透過する湿気の量を比較した結果です。
ご覧の通り、たった2cm角という小さな穴が開くだけで、10倍の湿気が透過すると言うことが分かったのです。
つまり、いくら実験室で良好な結果を出した材料でも、現場では計画通りの施工がされず、実際の建物では断熱性能に関わるほどの隙間を発生していると言えます。
2点目は、図②で結露防止対策として講じられた仕組みがそのまま採用されず、図②の通気層に当たる位置に透湿を妨げる何らかの部材が設置されてしまっていることです。
この何らかの部材とは、現代の家づくりではほぼ標準仕様として扱われているパネル材で、その材質は水蒸気をほとんど透過させない合板の様なものが一般的です。(上の写真もそれに該当します。)
これらのことから、次の様な工程で上の写真の様な状況を起こすと推測できます。
①(手抜きのつもりがなくても)施工精度の低さによって気づかない隙間が発生し、想定以上に室内の湿気が外壁内部に侵入する。
②屋外に近い温度の低い部材に触れることにより空気の温度も下がり、室内温度で気体だった湿気が気体から水滴に姿を変える。(←これが結露です。)
③水滴となる位置は、通気層よりも手前に設置された合板などの室内側であり、ほとんど湿気を透過させない合板は水滴を外壁内に留めるので、木材の腐朽やカビを発生させたりする。
つまり、結露を乾燥させる役目の通気層に結露の水滴が到達できず、通気層は役目を果たす事ができていないと言うことです。
4.最後に
ここまで、一般的な結露である冬季の結露について、その被害と仕組と理由を述べてまいりました。
結露は、実際には夏季にも起きています。
これは逆転結露と呼ばれ、防湿フィルムの室内側に水滴を生じ、室内の壁がブニョブニョになったり、カビが大量に発生したりするので、これまた厄介な問題となっています。
健康な家づくりの為に、住宅の高気密高断熱を目指すのは良いことです。しかし、この性能が高いほど結露リスクは高くなるので、対策をしっかりしておく必要があります。
現実には、高気密高断熱を謳う建築会社でも、結露に対する知識や意識が低かったりする場合があります。
結露対策が甘いと、高気密高断熱を実現したことが原因で結露による被害が発生し、目的とは正反対の不健康になってしまうリスクがあります。
もちろん、このリスクを避ける為に気密断熱性能が低い家を建てるというのでは、絶対NGですヨ。なぜなら、結露が起こりにくい代わりに、夏は室内熱中症、冬はヒートショックによる死亡のリスクが高まり、健康どころか命に関わる問題が高まるだけですからね。
一生に一度のマイホームづくり。高気密高断熱の住宅を結露対策をしっかり考えながら、ぜひ検討してくださいね。
◇アイジースタイルハウスの【 性能/仕様 】
#防湿層 #内部結露