もし家を建てるなら
ZEHは「ゼッチ」と読み、地球環境への負荷低減や居住者の健康増進のために、建物の仕様や性能、設備について国が定めた設計基準の呼称です。
令和3年10月の閣議決定で「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」こと、「2030年において新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」ことを政策目標として設定。経済産業省・国土交通省・環境省が連携し、2050年カーボンニュートラル実現に向けて実施している住宅の省エネ・省CO₂化の取組みです。
(本記事は、2019年1月31日の内容を改訂し、再公開したものです。)
1. ZEHとは?
住宅のエネルギー収支をゼロ以下にすることを目指して国が定めた建物の設計基準です。ZEH住宅は、国の最新の省エネ基準(次世代省エネ基準)を上回る断熱性能を備え、建物が消費するエネルギーを太陽光発電によって賄い、その収支を0以下にします(図1)。
ZEHは正式名称の頭文字を取った略称で、正式には「net Zero Energy House」(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)です。
ZEH基準をクリアすることで、建物の消費エネルギーを減らし、季節の寒暖の影響によらず快適な室内環境を実現できるので、ヒートショックや熱中症など身体的ダメージが減り、居住者の健康増進にも貢献します。
(図1)
2. ZEHのメリットとデメリット
ZEHは短期的に見るとデメリットが目に付きますが、長期的にはメリットが上回るという考えです。注文住宅は、何十年も住み続けることを考え、しっかりとご自身で判断しましょう。
2.1 メリット
①冷暖房機器の消費エネルギーが抑えられ、光熱費を削減できる。
②快適な温熱環境によって、居住者の健康が増進される。
③健康増進の結果として、医療費を抑制できる。
④冷暖房エネルギーが抑止でき地球環境への負荷を軽減、サステナブルな社会を実現できる。
⑤停電時に自家発電によって生存環境を維持できる。(蓄電システムがあればなお安全性が高まる。)
2.2. デメリット
①ZEH対応とするための追加費用が掛かる。
②ZEH基準をクリアするために、間取りや使用部材に制限が出る。
③補助金申請後は、設計変更ができない。
いかがでしょうか?デメリットの①は、補助金(下記参照)の適用という支援策が用意されていますし、②、③については、設計力のある建築会社としっかりと打合せをすることで、ほぼクリアできる様なものだと考えれば、メリットによって享受できるものはとても大きいと思いませんか?
3. ZEH策定の背景
もともと、国がこのZEHと言う基準を定めたのには、「地球温暖化対策」と言う国際的な取組みの一環という背景があります。
2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」で定めた、各国の温室効果ガス排出の削減目標を実現するための施策のひとつです。
パリ協定ではこの温室効果ガスの削減という目標を、エネルギー消費の削減によって実現しようとしています。
パリ協定が定められた同年、2015年度の国内の全消費エネルギー中、家庭部門が占める割合は約13.8%(資源エネルギー庁HP)あるため、有効な施策を講じれば一定の削減効果が得られると考えられます。これを住宅によって実現しようとしたものがこのZEHです。
ZEHは、現在の省エネ基準に対して上位の基準になります。なぜなら、現在の省エネ基準は、パリ協定の目標を達成できない基準であるため、それに見合うレベルを定める必要があったからです。
4. 3つの対策
ZEHには、次の3点についての対策が定められています。
(1)断熱
(2)省エネ
(3)創エネ(エネルギーを創ること)
創エネについては、消費するエネルギーを0(ゼロ=無し)にすることは現実的には困難なため、消費エネルギー以上のエネルギーを環境負荷の低い設備で創る(=創エネ)ことで、消費エネルギーをプラスマイナス0以下にするという考えによるものです。
4.1. 断熱
建物自体の高断熱化することで建物内外の熱の出入りを抑えることができます。これにより、冷暖房等の消費エネルギーの削減を実現します。
主に外皮と呼ぶ建物を囲う部位【屋根(天井)、外壁、最下階の床、開口部(窓や玄関ドア等)】の素材や部材に高断熱性能のものを使用します。
4.2. 省エネ
例えば、従来の電灯をLED照明にしたり、一般的な給湯器からエコキュートやエコジョーズなどエネルギー効率の高い設備を使用したりすることで、消費エネルギーの削減を実現します。
4.3. 創エネ
太陽光等の発電システムにより、エネルギーを創ることで消費エネルギー収支の正味を0にします。
寒冷地、低日射地域、多雪地域などでは実現困難な場合もあるため、一定の基準をクリアした住宅には、消費エネルギーの削減率が正味75%以上の省エネでも良しとする扱いもあります。この場合は、ZEHと区別してNealy ZEH(ニアリーゼッチ)と呼びます。
ちなみに、都市部狭小地(敷地面積85㎡未満など諸条件あり)で一定の基準をクリアした住宅には、この「エネルギーを創る」という項目が免除されつつ認定が受けられる、ZEH oriented(ゼッチオリエンテッド)いう扱いもあります。
その他の扱いとして、ZEH+(ゼッチプラス)と呼ぶ、ZEHを更に上回る基準などもあります。寒冷地、低日射地域、多雪地域などでのZEH+は、Nealy ZEH+(ニアリーゼッチプラス)という扱いも可能となります。
5.各対策の基準
上記の各対策を満たす基準は、次の通りです。
5.1. 断熱の基準
下の表の通り、各地域区分(※1)ごとの外皮平均熱貫流率(UA値(ユーエーチ)※2)が現在の省エネ基準よりも上回ること。
UA値は小さい方が断熱性能が高いことを示します。
現在の省エネ基準の数値と比較して、ZEHの基準は全地域でより厳しい数値が求められているのが分かります。
(※1)地域区分とは
国が省エネ性能の基準を定める上で、地域によって生じる年間の温度差ごとにある程度のグループに分けた区分です。同じ国内でも、冬季の影響が厳しい札幌市と比較的ゆるい鹿児島市では、求められる基準に差をつけています。実際には、同じ都道府県の中でも、市町村ごとに区分けが違う場合があるので注意が必要です。
(参考)地域区分(令和元年11月16日に地域区分の見直しによる新地域区分が施行されています。)
(※2)外皮平均熱貫流率(UA値)とは
建物の屋内外を分ける部位、すなわち、天井(または屋根)、外壁、窓などの開口部、床(または基礎)を外皮と呼びます。外皮平均熱貫流率とは、建物から失われる熱の量を外皮面積で割った数値で、建物の断熱性(=省エネ性)を表す数値です。以前はQ値と言う指標が用いられていましたが、平成25年の省エネ法の改正以降は、代わってUA値が用いられることとなりました。ただし、建築業界では、今でもQ値は有効な断熱性能を示す目安として扱われています。
(参考)UA値の詳しい解説
5.2. 省エネの基準
空調、給湯、換気及び照明の各設備によって、現在の省エネ基準より20%以上削減できることが基準です。
5.3. 創エネの基準
太陽光などによる発電システムによるエネルギー創出と、空調、給湯、換気及び照明の各設備の省エネ効果により、現在の省エネ基準と比較した削減率が100%以上か75%以上とすることが基準です。
6. ZEH認定の取得による優遇措置(支援事業)
ZEH認定の取得による各省の支援事業や住宅融資借入れ金利など、複数の優遇措置が設けられています。
6.1. 3省による支援事業
大きな優遇が受けられる主な施策は、経産省、環境省、国交省による支援事業です。
以下、各支援事業で受けられる補助金の概要です。同じ支援事業でも諸条件による金額の違いがありますので、ご検討の際は各支援事業の詳細にあたってください。
①地域型住宅グリーン化事業(国土交通省)
・住宅:140万円/戸(上限20万円の加算条件有り)
②戸建住宅ZEH化等支援事業(環境省)
・住宅:55万円/戸(ZEH)、100万円/戸(ZEH+)
・蓄電システム:2万円/kwh(上限20万円かつ、補助対象経費の1/3以内)
③次世代ZEH+実証事業(経済産業省)
・住宅:100万円/戸(次世代HEMS実証事業による加算条件有り)
④こどもみらい住宅支援事業(国土交通省)
・住宅:100万円/戸(ZEH、Nearly ZEH、ZEH Oriented)
6.2. その他の優遇措置
住宅金融支援機構の住宅融資(フラット35)で、金利優遇タイプを選べます。
①フラット35S(ZEH)
・「フラット35」の借入金利から当初5年間年0.5%、6年目から10年目まで年0.25%引き下げます。
優遇措置は、複数の支援事業による補助金の受取りはできませんが、融資の優遇は各省の支援事業と合わせて受けることができます。ただ、どの支援事業の補助金が受けられるのかやより有利な支援事業がどれか、などの判断は一般の方にはとても面倒だと思います。ここは、ご自身で調べるよりも、補助金申請の経験豊富な建築会社に協力してもらうことが現実的です。(※2022年12月4日現在 こどもみらい住宅支援事業と次世代HEMS実証事業の募集は終了しています。)
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