もし家を建てるなら
今から2000年以上も昔、紀元前のローマの建築家ウィトルウィウスは、著書「建築書」の中で建築の三大要素を、「強がなければ用は果たせない、強と用がなければ美は形だけのもの、そして、美がなければ建築とはいえない。」と述べています。住宅建築においても、この強、用、美、全ての要素を兼ね備えて初めて、本当のロングライフデザインと言えます。また、この言葉は
各要素の優先順位も明示してくれています。
今回は、弊社が大切にしている、住宅建築に対する考えをお伝えします。
1.2016年熊本地震で起ったこと
今から3年前の4月、熊本県と大分県で震度7という巨大地震が三日間で2度も発生しました。国内の有史以来、これほど巨大な地震が短期間に連続して起こった記録は無く、世界的に見ても非常に稀な災害でした。
そしてこの地震は、国の定める耐震性を十分以上に満たした新築住宅に予想以上の被害を与え、住宅建築業界にも激震を起こしました。それは、法で定める耐震性の規定が甘すぎるのではないかと言う指摘です。
これについては、別の記事で書いていますので、ご興味のある方はコチラからどうぞ。
2.何はともあれ「強い」ということ
冒頭の建築三大要素、強、用、美は、住宅建築においては耐震性、住み心地、デザインに当たります。そして、その重要度は、言葉の並びの通り「強さ」が最も優先されるべきです。
これは、車に例えると良く分かります。
事故は即、生命や生活の危機に直結していることから、現在市販されている新車は、車種やグレードに関わらず一定の衝突安全基準を満たしています。もし、これを購買客が選べるとしたらどうでしょう?しかも、最低基準以下のものを選ぶことが可能で、それが生命や生活に重大な危機をもたらす様なレベルだとしたら?もはや、それは「安全性」とは呼べないものですよね。
幸い車の場合、安全性は最低基準以下で良いからその分安く買うとか、装備に回すなどはできない仕組みになっています。
ところが、車よりもはるかに高額で、長期に渡って使用し、長時間その中に居るであろう住宅では、車で言う衝突安全性に当たる耐震性の最低基準が甘かった、と言うことが熊本地震で露呈しました。
そう考えると、住宅建築における耐震性は、住み心地やデザインを考える前に最優先で確保すべき性能だと言えます。
住宅に必要な耐震性は、地震の様に瞬間的に加えられる建物への荷重「短期荷重」と、建物自体の重さである固定荷重やピアノなどの積載荷重「長期荷重」があります。これらは、現行法では下図の様に、構造安全の信頼性に大きなバラつきがあるもにも関わらずどの計算でも合法です。
多くの建築会社では、この図の最下部の「仕様規定」を当然の様に採用しています。なぜなら、この計算は非常に簡単なので外部の専門業者に出さずに、早く計算できるからです。これは、出費も工期も増やさなくて済むので、利益を確保できると言う「都合の良い結果」を建築会社にもたらします。しかし、その分、構造安全の信頼性が構造計算などと比べるとグッと落ちます。
先の地震では、この事が、合法に建てられた建物なのに大きな被害を出した原因になっているのです。
3.合理的な構造計画と精密な計算による裏付け
弊社、アイジースタイルハウスでは、上の図で最も信頼性の高い「構造計算」を全棟で実施しています。ただし、その結果はあくまで机上の計算に過ぎないと言う自覚も持っています。
これは、いくら計算上の耐震性を証明しても、計算では表現できない構造物としての整合性も取れている必要があると考えるからです。
弊社では、この点に関しては、ブロックプランと言う構造計画の伝統的な手法を採用することで対応しています。
ブロックプランは、建築設計おける基本中の基本となる構造計画の考え方で、非常に長い歴史があります。ところが、現代の国内の住宅建築業者の多くは、国の定める構造基準のレベルの低さに甘え、この様な基本的な構造の考えによる構造計画もせず、まして、費用と期日を要する構造計算までしようなどとは考えないようです。
どんな高級車よりも大切な「我が家」について、私たちはまず建物の強さを確保します。その為にブロックプランと言う合理的な構造計画による間取りを考え、そしてそれを構造計算によって裏付けています。
ちなみに、最近では、実際の地震の揺れを再現できるソフトウェアを使用した、リアルな耐震シミュレーションも導入しています。
4.住み心地
さて、耐震性を確保したら次は住み心地です。これは、間取りと仕様の2つの視点で見ます。
間取りによる住み心地が主に「使い勝手」から見た性能とすれば、仕様による住み心地は「快適性」から見た性能と言えます。
弊社の場合、注文住宅なので間取りはそれぞれの建物ごとに無数にあり、計画手法も広範囲に渡って考えることがあり、ほぼエンドレス。
と言うことで、今回は仕様による住み心地についてお伝えします。
人が感じる快適性とは、室内の寒暖による体感が最も重要で、主に室内温度と湿度が大きく影響します。そして、なかなか気づかないのが、ホルムアルデヒドを代表とするVOC(揮発性有機化合物)の放散の程度です。
弊社では、木造建築物を長期に渡り(今年で120年です)メンテナンスしてきた歴史から、個人の生命、健康を守る大切な住宅は、例え木造でも長期の耐久性を持ち、かつ、安全に過ごせるものでなければならないと考え、現在の家づくりに至っています。それが、先の耐震性であり、住み心地に影響する快適性に関しては、一年を通じ快適な室内の温熱環境を実現する外装材、断熱材、内装材の採用であり、シックハウスなどの被害から健康を守るために、完成後には見えなくなる構造材や下地にまでこだわった自然素材の採用と言うことです。
4.1温熱環境
以下の優れた材料の組合せによる「透湿高断熱」の家づくりで実現しています。
- 太陽熱を反射して建物の温度上昇を防ぐ、外装塗り壁材
- 構造材の外側をスッポリと包んで室内外の温度の出入りを断つ外断熱材
- 断熱性の高さのみならず、素材が持つ調湿性能が人の快適ゾーンと一致している内断熱材
- 室内の湿度を人の快適ゾーンで調節する内装塗り壁材
また、これらは全て一定の透湿性能を有しており、湿度の高い夏季は室内から屋外に放湿し、過乾燥になりがちな冬季は、機能性防湿フィルムによって適度な湿度を保つ様にしています。
そして、室内環境に影響する材料は全て、国の規定値をはるかに下回るか、あるいは検出不可なほど安全な素材を選定しています。このことは、弊社が全棟で実施しているお引渡し前の「VOC検査」によってその結果をお渡しする事で証明しています。
5.最後に
さて、本来は残りの「美」を示す「デザイン」について語るべきですが、予想以上の長文になってしまったので、今回はここまでとさせていただきます。もちろん、デザインについても、住宅は地域を表現する文化であると言う考えから、独自のデザインコンセプトを持っていますので、もし、ご興味がおありでしたら、ぜひ、お気軽にご来店くださいね。
今回は、弊社の住宅の自慢みたいな記事になっていましたが、建築三大要素の強、用、美の重要性は紀元前から不変です。それにも関わらず、国内では「合法」であることが「免罪符」となり、構造強度の安全性を損ねてまで、間取りやコストあるいはデザインを優先するマイホームづくりが横行しているのが現実であることをお伝えする為に書きました。
多くの方にとっては一生に一度の大仕事、大決断となる夢のマイホーム取得が、数十年後も本当に建てて良かったと言えるものが本当のロングライフデザインだと思います。
#強・用・美