もし家を建てるなら
夏に欠かせないエアコン。その1年間の販売台数は900万台以上(!)あるのだそうです。
ところで、そのエアコンを選ぶとき、ほとんどの方はカタログに記載されている部屋の畳数から判断されていることと思います。しかし、比較的新しい住宅では、カタログの畳数でエアコンは選んではいけないことをご存知でしょうか?
それは、最近の住宅は気密性、断熱性が高いので、カタログ通りのエアコンではオーバースペックとなり、購入費や電気代などで無駄が生じている可能性があるからです。
実は、適正なエアコンサイズは自分で計算して求めることができます。適正なエアコン選びで、家計にも環境にもエコな暮らしを実現しましょう。
1.エアコンカタログの見方
計算するに当り、必要な数値を拾い出します。
まずは、エアコンのカタログから。
(画像出典:日立グローバルライフソリューションズHPのエアコンカタログより)
使用するのは、エアコンの定格能力です。定格能力と言うのは、表のカッコ内に記載された実際の冷暖房能力の範囲(表では、暖房0.2~4.1kW、冷房0.3~2.8kW)の中間的な能力を表すものです。
表の赤枠と青枠の数値がそれぞれの定格能力を表します。この場合、6畳の部屋では、暖房2.5kW、冷房2.2kWの定格能力のエアコンが推奨されていると分かります。
では、この根拠は何でしょうか?
2.55年前の選定基準が今もそのまま
実は、この表に限らず、現在のエアコンカタログの選定は1964年に制定された基準で作られています。そう、今から55年も前のものが今もそのまま使われているのです。
この時代の住宅は、気密や断熱など温熱環境のことなど建築業者でさえ全く気にせずに建てられていたもので、冷房も暖房も室内外の熱がじゃんじゃん出入りする様な時代の建物を対象とした基準なのです。夏は容赦なく太陽熱が室内に入り込み、冬はストーブの間近以外は極寒となる様な断熱的にはスカスカな建物でした。
現代の住宅は、特に意識しなくてもその頃より気密性、断熱性はかなり向上しています。そして、公的な指標として、平成11年(1999年)に次世代省エネ基準が制定され、これが高気密高断熱住宅の目安になりました。(現在は、この数値でもかなり低いと言われ、高気密高断熱住宅を建てる建築会社は、これ以上の性能を目指すところが多いです。)
現在の次世代省エネ基準は、平成25年(2013年)の改正によってUA値を指標としています。UA値は外皮平均熱貫流率と言い、床、外壁、屋根(天井)や開口部などの「外皮」から屋外へ逃げる1㎡当りの熱量の割合です。しかし、エアコンの適正能力を計算するのはQ値を利用する方が便利です。Q値は熱損失係数と言い、UA値同様熱の損失量を表しますが、外皮面積ではなく延べ床面積で割ったり、換気回数を考慮したりと少し考え方が違います。ただし、いずれも値が小さいほど熱が逃げにくく建物の断熱性能が高いことを意味します。そして、制定当初の次世代省エネ基準の指標はQ値でした。愛知県、静岡県を含む地域における省エネ等級4の場合、Q値2.7と定められています。
(平成11年次世代省エネ基準の地域区分)
(平成11年次世代省エネ基準の熱損失係数Q値)
ここで、1964年頃の木造住宅の熱損失係数はというと、Q値20程度と次世代省エネ基準の7倍以上も熱が逃げやすい建物です。
この事からも、最近建てられた住宅で、昔ながらのエアコン選びをするとオーバースペックになることが直感的にも理解できるでしょう。
3.6畳用のエアコンの実力
では、これまでの選定基準で選んだ「6畳用エアコン」を高気密高断熱住宅で使用すると、実際にはどれくらいの広さまでカバーできるのかを計算してみます。
基準制定時の平成11年当時のQ値を使います。
建物の断熱性能がUA値で表示されている場合、Q値へ換算することもできますが、熱損失の考え方に少し違いがあるため、統一された換算式というものがなく、いずれかの換算式を採用する事になります。(ただし、平成11年制定時のQ値を実際に換算すると、現在の次世代省エネ基準のUA値とほぼ合致するので、どの換算式で計算しても大きな問題はないと思います。)
Q値は、室内外の温度差が1℃の時、1時間に逃げる1㎡当りの熱量(=熱損失量)を床面積で割ったものです。
Q値(W/㎡・K)=温度差1℃あたりの建物全体の熱損失量(W/K)÷床面積(㎡)
この式から、Q値と各部屋の床面積と室内外の温度差が分かればその部屋の熱損失量を求めることができると分かります。
設置する部屋の熱損失量=Q値×その部屋の床面積×温度差
この熱損失を、エアコンなどの冷暖房で丸ごと補う分けですから、熱損失量はそのまま必要なエアコンの冷暖房能力になります。今回は、既に分かっている冷暖房能力から冷暖房できる床面積を出したいので、上の式を変形して求めます。
(冷暖房できる)部屋の床面積=エアコンの冷暖房能力÷Q値÷温度差
となります。
では、今回取り上げた6畳用エアコンの定格能力(冷房2.2kW、暖房2.5kW)で実際に計算してみましょう。仮に、屋外の温度が5℃、室内の温度を21℃、つまり、温度差は16℃とします。
(冷暖房できる)床面積
(冷房の場合)2200W÷Q値2.7W/㎡・K÷温度差16℃≒51㎡
(暖房の場合)2500W÷Q値2.7W/㎡・K÷温度差16℃≒58㎡
となります。つまり、現在の選定基準でみた6畳用エアコンは、現代の次世代省エネ基準を満たした現代の住宅なら、冷房で30畳以上、暖房なら35畳以上の部屋に対して有効であることが分かります。ただし、現代の住宅であっても、全て次世代省エネ基準を満たしている分けではありませんので、ここはご注意くださいね。
4.エアコンをZEH基準の部屋に設置する場合
では、次世代省エネ基準よりも厳しいZEH基準をクリアした建物の場合を見てみましょう。
例えば、最近の住宅でよく見られる20畳前後のLDKに必要なエアコンを選ぶ場合とします。
上記で取り上げた地域におけるZEH基準のUA値は0.6です。
この表の地域区分は、2013年に改正された次世代省エネ基準によるものなので、先に掲げた地域区分と異なります。
このUA値をQ値換算するとおよそ2.0(計算は省略)となります。LDKの広さが20畳(約33㎡)、室内外の温度差を先と同じ16℃とすると、
必要な冷暖房能力=Q値×床面積×温度差=2.0W/㎡・K×33㎡×16℃=1、056W
となり、たった1kWちょっとのエアコンで済む話になります。とすると、定格冷房能力が一番小さな2.2kWのエアコンを選択する、つまり、現在のカタログで言うところの「6畳用のエアコン」で足りる!と言うことになります。
5.大きすぎるエアコンを見直す目安にする
高断熱のZEH基準とは言え、20畳の部屋のエアコンを「6畳用で大丈夫です!」と言われても、さすがに不安ですよね!?(笑)。また、Q値と広さが同じでも吹抜け天井ならどうなのか、室内外の温度差をどれくらいで見ると良いのか、などを考えるともう少し考慮する必要があるかも知れません。
ですので、この試算は一般的な天井高(2.4m前後)の場合の目安として、次の様に考えてはいかがでしょうか?
エアコンで暖房する場合、最も運転効率が良いのは定格能力の70~90%で運転している時だそうです。上記で選定したエアコンは冷房定格能力2.2kW、暖房定格能力2.5kWなので、暖房運転で定格能力の70~90%でどの程度の出力となるのかを見てみます。
先の試算では、必要な熱損失量=1,056W=必要なエアコンの能力 でしたね(計算上1.1kWとします)。よって
1.1kW/0.7(←高効率範囲の最小値)≒1.6kW
となり、余裕で1.1kWを上回ります。
ちなみに、20畳用のエアコンをカタログから選んでしまうと
暖房能力7.1kW!と、必要能力1.1kWの約6.5倍!と、とてもつもなく高出力のものです。
これを定価で比較すると、23万円(税込約25万円)!もの差です。実売価格ではここまでの差にならないとしても、多分10万~15万円くらいの差にはなるんじゃないでしょうか。また、必要な能力である1.1kWは、このエアコンの定格冷房能力の約17%、定格暖房能力の約15%しか使わず、相当に運転効率が悪くなると考えられます。車なら何千cc以上もの大排気量の車で、自転車くらいの速度でずーっとノロノロ走っているのと同じです。車なら燃費が悪くなるのと同様、エアコンも無駄に電気代が掛かることになります。
6.最後に
今回は、現在のエアコン選定基準があまりに古い建物の性能を用いていること、それによってオーバースペックとなるエアコンを設置し、購入費と電気代をムダにしていることをお話ししました。
とは言っても、20畳の部屋で6畳用のエアコンを本当に付けるとなると、現実的にはかなり心配ですよね。ですので、このシミュレーションは、高断熱住宅で現在のカタログを鵜呑みにしてエアコンを選ぶと、能力が過剰になりがちになると言うことを理解する為の考え方として割り切った方が良いと思います。その上で、エアコン能力のランクを下げて選ぶ目安にして頂ければと思います。
実際、弊社で住宅を建てていただいたオーナー様で、20畳用エアコンで40坪(80畳)以上の建物を丸ごと冷暖房しているケースがいくつもあります。今後、もし高断熱住宅を建てられるのであれば、上手にエアコンを選べば、家計にも環境にも優しい暮らしができることを知っておいて下さい。
■ブログより
・実録データ!アイジーの家でどれくらいエアコンを使うのか?
・床下エアコン
#エアコン #性能 #選び方