もし家を建てるなら
近年の木造住宅建築で多用される構造材に「集成材」と呼ばれる製品があります。集成材は、木材でありながら、工場生産される工業化製品でその製造には接着剤が使われています。
集成材の対極にある自然素材としての柱や梁は「無垢材」と呼ばれ、これは、森で伐採した木から柱や梁を切り出し、そのまま乾燥させた木材製品ですので、接着剤は使っていません。
集成材は、その名の通り「材料を集めて成形」したもので、その成形のために大量の接着剤を使うのです。
接着剤は、様々な化学反応を活用して性能を発揮する工業ボンドで、今回はこれら接着剤の種類や特徴についてお話ししていきます。
1.集成材とは
木造住宅における集成材とは、集めた小さな木材を接着剤で接着して製品化した建築材料です。柱や梁など、住宅を建物として支える大切な骨組みである構造材から室内の腰壁の笠木やカウンターなどの造作材まで多様な集成材があります。
材料となる小さな木材は、例えば柱の集成材なら厚さ2cm前後の板状のものを数枚重ねます。もちろん、元の木材は長さの限度があるので、柱の長さ(縦)方向にも継ぎ目があります。
国内では1950年代からの使用例がありますが、実際に普及し始めたの1980年代後半以降で、無垢材の千年単位の歴史と比べれば、集成材の材料としての歴史はまだまだ浅いと言えます。
しかしながら、現代の家づくりには欠かせない材料として広く普及していることも事実で、工業用ボンドを接着剤として使用する集成材の普及の時期と合わせる様に、シックハウス症候群の相談も増えた経緯があり、その接着剤による健康への影響を心配する声も上がっています。
2.集成材の見た目の特徴
まず、集成材と無垢材の見分け方を知っておきましょう。
どちらも木材からなる製品ですが、集成材と無垢材では見た目に大きな違いがあります。
集成材の見た目の特徴は、いくつもの直線が入っていることです。
この直線は、集成材を構成するそれぞれの材料同士を貼り合せた面に沿って表れます。
集成材を構成する各部材の接着面は、この黄色の部分です。
一本の梁に、10枚もの板を接着していることが分かります。
そして、この面すべてに接着剤が使われています。
3.接着剤の種類
接着剤には無機系と有機系があり、一般的な接着剤は有機系です。
有機系には、自然素材由来の「天然系」(にかわ、カゼインなど)と人工的な化合物である「合成系」があり、これらに含まれる種類は多種多様です。
集成材の製造に使用されるのは、合成系からさらに分類される「熱可塑性樹脂系」と「熱硬化性樹脂系」の接着剤が代表的です。
3.1.木材の接着に使用される接着剤
①酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤(熱可塑性樹脂系)
主成分の酢酸ビニル樹脂をエマルジョン(乳濁液)化した接着剤。
代表例は木工用ボンド。
【用途】・・・集成材、家具
②ユリア樹脂系接着剤(熱硬化性樹脂系)
尿素(ユリア)とホルマリンを主原料とする接着剤。
硬化剤として塩化アンモニウムや酸が用いられる。
【用途】・・・合板、パーティクルボード、MDF
③メラミン樹脂系接着剤(熱硬化性樹脂系)
メラミンとホルマリンを主原料とする接着剤。
【用途】・・・合板、集成材、単板積層材、パーティクルボード、MDF
④フェノール樹脂系接着剤(熱硬化性樹脂系)
フェノールとホルマリンを主原料とする接着剤。
【用途】・・・合板、単板積層材、パーティクルボード、一般木工
⑤レゾルシノール樹脂系接着剤(熱硬化性樹脂系)
レゾルシノールとホルマリンを主原料とする接着剤。
【用途】集成材、木造船舶
⑥水性高分子-イソシアネート系接着剤(熱硬化性樹脂系)
水溶性樹脂、合成樹脂エマルジョン、無機充填剤等を成分とする「主剤」と、イソシアネート化合物(MDI系)などの「架橋剤」とを組み合わせて使用。
ホルムアルデヒドが使われていない。
【用途】・・・集成材
4.健康面について
接着剤の健康面を見て見ましょう。
上記の通り、集成材に使われる接着剤は
- 酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形接着剤
- メラミン樹脂系接着剤
- レゾルシノール樹脂系接着剤
- 水性高分子-イソシアネート系接着剤
となります。
この内、ホルムアルデヒド放散の心配が無いものは「4.水性高分子-イソシアネート系接着剤」のみです。
健康を侵すのはホルムアルデヒドだけではありませんが、最もメジャーで健康への影響が顕著な物質としてここにあげました。
国内で使われる集成材は、規格に従いホルムアルデヒド放散等級が最高等級のF☆☆☆☆(フォースター)か、次の等級であるF☆☆☆(スリースター)として法規制をクリアしているものです。しかし、あくまで各等級の法規制値以内の放散量であると言うだけで、ホルムアルデヒドを一切出さないと言うことではありません。実際、2003年のシックハウス対策法以降、シックハウスによる相談数は一定の数まで減少したものの、直近の数年では相談数が増加傾向に転じています。
健康面としては、不安が残りますね。
5.耐久面について
接着剤としての耐久性はどうでしょうか?
接着剤が物質を接合する仕組みは現代でも解明されていませんが、一般的には次の3通りが考えられています。
- 機械的接着(投錨(アンカー)効果)
- 化学的接着(一次結合、原子間引力)
- 物理的接着(二次結合、分子間引力)
この内、集成材の接着については、「1.機械的接着(投錨(アンカー)効果)」による作用と言われています。
※その他の仕組みも知りたい方は、コチラ。(別サイトのPDFファイルに飛びます)
機械的接着の仕組みは、材料同士を釘で接合するのと似ています。
木には無数の微細な凹凸があり、そこに凝固前の接着剤が入り込み、固化することで木材同士が接合されると言う仕組みです。
機械的接着のイメージ
この接着イメージを、海底に落した錨(イカリ)で船を固定する様子に重ね、投錨効果と呼びます。
上の図の様に接合する木材同士の間に入り、投錨効果によって互いをつなぎ止める接着剤は、時間の経過とともに水分が抜けて固化することで役目を果たします。
固化した接着剤は、いわばプラスチックの様な物質です。
結合力の強い「化学的接着」や「物理的接着」の効果がほとんど無く、「機械的接着」力だけが頼りの集成材は、プラスチックの様になった接着部分が、紫外線や常時あらゆる方向から加わる力(車の往来や風などによる建物の揺れ)によって接着面が剥離する可能性があります。
ちなみに、ホルムアルデヒドを放散せず、耐久性も高い「水性高分子-イソシアネート系接着剤」は、開発された70年代以降今も高く評価されています。そして、特許が切れている現代では、優れた接着剤として多くの集成材の製造に用いられています。
ところが、ある曝露試験においては、湿潤状態では強度の低下も確認され(※1)たり、一部の樹種においては、はくり率(接着面の剥がれ)が上昇する(※2)ことが確かめられております。
※1:宮淳子「構造用集成材に使用される接着剤 」(地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 HPより)
※2:増田 勝則、柳川 靖夫「水性高分子-イソシアネート系接着剤で接着したヒノキ集成材の接着はくり試験における接着性能」(CiNii HPより)
特に、湿潤状態と言うのは、直接雨にでもさらされなければ大丈夫ではないか?と考えがちですが、残念ながら国内で建てられる木造住宅の多くは先進国としては考えられないほど断熱性能が低く、大量の壁内結露が発生するため、目視できない外壁の中は「湿潤状態」となり、柱や梁の耐久性が落ちるリスクがあります。
柱や梁の耐久性が落ちると言うことは、構造体が劣化すると言うことであり、大切な我が家が長持ちしない。と言うことです。
と言うことで、健康面に加え、耐久性も不安が残ります。
6.最後に
集成材の接着剤について、健康面、耐久面ともに不安が残ると書きましたが、合成系接着剤(工業ボンド)は日進月歩で、今後は高い接着力を発揮しつつ厳しい環境にも耐え、健康に害の無いものが開発されるかもしれません。
しかし、「水性高分子-イソシアネート系接着剤」の様に、40年も高い評価がある理想的な製品ですら、一定の条件下ではリスクとなる可能性があります。
大切な我が家の建築において、材料の選定はとても大切です。インターネットでも正しい情報は得られますが、そうでない情報もまた大量にあります。
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私たちも、何でもかんでも自然素材が良いとは考えていませんが、木造建築においては、今のところ、健康面や耐久面でのリスクを考えた場合、構造や内部の仕上に用いる材料は自然素材の方が良い様に思っています。
#集成材 #接着剤