もし家を建てるなら
2018年3月に、日弁連(日本弁護士連合会)から、「4号建築物に対する法規制の是正を求める意見書」(PDF形式のファイルが開きます)と言うものが提出されています。
木造住宅の耐震性について、当事者である木造建築業界ではなく日弁連と言う全く別の業界が危惧しての提出です。
これは、日本の木造建築物の耐震性能確保に対する、現在の法制度の不備についての指摘です。
現在の甘い法制度によって、想定内の地震でも倒壊してしまう様な建物が合法的に建てられているので法律を改正すべきとの指摘をしています。
今回は、日本の木造住宅建築の甘い耐震性能の法規制についてお話しします。
1.木造住宅の耐震性能とは
建築基準法で定めらる耐震性能は、大規模地震と呼ばれる震度6強~7の揺れ程度では、倒壊、崩壊の恐れはないことになっており、公的な耐震性能の表示方法では「耐震等級1」と表示されます。「一番下の1」という意味なので、これが最低限確保すべき耐震性能となります。
この最低限の耐震性を更に強化する基準が、建築基準法以外のところで規定されており、耐震等級1の1.25倍の耐震性が耐震等級2となり、1.5倍は耐震等級3となります。
現実には、2016年の熊本地震の被害の実態から、建築基準法の規定に違反していないだけの建物ではとても安全な耐震性とは言えないという声が、建築業界の一部で強くなっています。
2.構造計算は「義務」じゃない!?
国内で建てられる木造建築物の内、2階建て以下、延べ床面積(※1)500㎡(約150坪)以下の建物を建築基準法で「4号建築物」と扱っています。従って、大半の木造住宅は4号建築物となります。(※1:床面積→各階の床面積の合計。バルコニー、吹抜けなどは除外する。)
ここで注目すべきは、4号建築物には建物の耐震性を確保する為の特例です。それは・・・。
建築基準法第6条の4に基づき、特定の条件下で建築確認の審査を一部省略できる。
と言うものです。
建物を建てるには、建築地を管轄する自治体(市役所など)の管轄部署(建築課など)に、建築確認申請と言う書類を提出し、審査をしてもらう必要があります。その際、4号建築物はその審査の一部が省略可能となっているのです。
そう、その省略して良いものが、建物の耐震性の証明になってしまっているのです。
え!耐震性の証明って省略して良いの?
と、思われたかもしれませんね。
実は、現在の法律では、一年間に建てられる建築物に対し、それを審査する人の数が間に合わず、一定規模以下のものは「設計士がちゃんと耐震性を確保した設計をしているとみなす。」ことによって、膨大な量の申請業務を行なっていると言う事実があります。
この「みなし行為」は、業界や役所の慣例ではなく、れっきとした合法行為です。しかし、これはあくまで「設計士がちゃんと耐震性を確保した設計をするはず。」と言う、性善説に依ったものです。
ほとんどの建築会社は、「じゃあ、法律で定められた簡単な計算だけやっとけばイイヨネ!?」と言う解釈の元、構造計算による確認を行なわないまま、4号特例を適用した申請で役所の審査を通過、晴れて「想定内の地震でも、もしかしたら倒れるかもヨ!?」という建物が完成します。
立法の際は、それを運用する建築業界の善意に期待して制定されたものの、運用の時点で、耐震性の裏を取らないままでも審査が通過し、これが日常化したため、悪意の無いまま「4号建築物は、構造計算不要」と言う危険な解釈をしている業界の人もいます。
3.構造計算は最低限の実施業務
法律では、建物の耐震性を確かめるのは構造計算でなければならないとは書いてありません。
しかし、現実には許容応力度計算と限界耐力計算という2種類の構造計算が、もっとも信頼できる耐力計算方法として扱われており、現時点ではこれ以上の計算方法は無いので、「構造計算=耐震性能の確認」と言うことになります。
木造建築物の構造計算では、これらの内「許容応力度計算」を採用し、使用する全ての部材と全ての接合部に掛かる力を計算します。
ここで、構造計算以外の計算方法とその精密性の差は下図の様になります。
(出典:M’s構造設計作成の講習資料)
この図で、一般的に用いられている計算方法が、最下段の「仕様規定」と呼ばれるものです。
近年では、建物の耐震性を表す指標として性能表示制度による耐震等級をご存知の方も増えましたが、それでも構造計算ほどの複雑さは無く、精密性においては構造計算が勝ります。
現在、近年の大きな地震では新しい建物の損壊の影響から、国は「4号建築物の確認の特例廃止」を決定していますが、実施はいまだ延期中です。
しかし、遠くない将来、この4号特例は廃止されるはずです。その時、構造計算が当たり前となり、いつか「えー!以前は構造計算もしないまま、マイホームを建ててたの!?信じられないー!」と言う日が来るでしょう。
状況は確実に変わりつつあります。
これから、大切な我が家を建てようと計画されているのであれば、必ず構造計算を実施してくださいね。
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