もし家を建てるなら
住宅を高気密高断熱化するメリットとデメリットについては、様々なところに情報が溢れ、その割には内容もまちまちだったりするので、実際のところどうなのか分かりにくくなっています。これは、住宅の高気密高断熱化が重要なキーワードとして定着しつつあるにも関わらず、供給者側である住宅建築業界自体、高気密高断熱を積極的に採用しない企業の方が多数を占めていることで、思い込みや知識不足によって、正しい情報が伝わらないと言うことが原因の一つと考えます。
今回は、住宅を高気密高断熱化するメリットとデメリットについて、弊社なりの考えをお伝えします。
1.高気密高断熱とは
高気密高断熱とは、字のごとく気密性が高く断熱性が高いという意味で、住宅における気密性とは室内外の空気の出入りの量の少なさ、断熱性とは室内外の温度の出入りの量の小ささのことです。
これら2つの性能を高いレベルで実現した住宅を高気密高断熱住宅と呼んでいます。
気密性能はC値、断熱性能はUA値と言う指標が用いられます。意味は次の通りです。
C値について
相当隙間面積と言い、単位は(㎠/㎡)。建物全体の隙間面積(㎠)を延床面積(㎡)で割った値です。つまり、1㎡当りの隙間の面積。値が小さいほど気密性が高く、建物内外の空気の出入りが少ないことになります。
最新の省エネ法ではC値が姿を消しているので、公的な指標としては平成11年の次世代省エネ基準C値5.0(北海道以外)・・・と言いたいところですが、現在の業界水準から見るとかなりレベルの低い数値であるため、C値は1.0を切る事が高気密と言える目安と考えます。
UA値について
外皮平均熱貫流率と言い、単位は(W/(㎡・K))。外皮とは床、外壁、屋根(天井)や開口部(窓、玄関等のドア)など室内外を隔てる部位のことで、その外皮から外部へ逃げる熱量(W/K)を外皮面積(㎡)で割った値です。つまり、1㎡当りから出入りする熱量(㎡)ですね。値が小さいほど断熱性が高く、建物内外の熱の出入りが小さいことになります。
最新の省エネ法による愛知県、静岡県を含む地域区分のUA値は0.87。しかし、最近では近年耳にする事が増えた、ZEH基準によるUA値0.6が目安となりつつあります。
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2.高気密高断熱住宅のメリット
では、室内外の空気と温度の出入りが少ない高気密高断熱の住宅におけるメリットを見ていきます。
2.1 冬でも暖かい
日射を取り入れたり、暖房設備を稼働させたりする必要はありますが、発生した熱が室外に逃げにくい事で室内が早く温まり、室温も下がりにくいので快適な温度を長時間保つことができます。また、高気密高断熱の建物であれば、あらゆる室内の扉を開放することで、建物全体がまんべんなく一定の温度を保ちやすいので、宅内のどの場所でも暖かく過ごすことができます。
2.2 健康に過ごせる
近年の研究で、住居の温熱環境が居住者に与える健康への影響が非常に大きいことが明確になってきました。例えば、暖かい家と寒い家では、病気の疾患率、血圧やコレステロール値、心電図など様々な項目で明らかな差が認められることが、今年1月に国交省から報告がありました。これには、暖かい家にした事で夜中にトイレに起きなくなるなど、身体だけでなく精神的な健康にも影響が出ているとの事です。
2.3 安心して過ごせる
近年、冬季の恒例報道の様になったヒートショックによる事故のニュース。宅内の温度差によって血圧の急な昇降を繰り返し、失神する場合があります。これによる死亡やケガの多さは想像以上で、実際、高齢者の入浴時の溺死者数は年間交通死亡事故の2倍以上と言う報告が消費者庁からも出ています。
この様な事故は建物内の部屋ごとの温度差を無くせば、身体に負担がかからなくなるので確実に防ぐことができます。
2.4 家計に優しい
高気密高断熱の家は、冷暖房が長時間に渡って良く効くため、冷暖房機器は少ない消費エネルギーと短時間の稼働で済み、年間の光熱費が気密性、断熱性の低い家よりも断然安くなります。例えば、昭和55年にできた初めての省エネ基準による住宅と平成28年の基準による住宅では、計算上、1年間に8万円以上、住宅ローンが終わる35年間であれば300万円近い節約ができます。
その他にも、結露が起きにくいので居住者の快適性や健康維持、建物の耐久性にも貢献すると言えます。ただし、断熱性が低く気密性も極端に低い家の場合、建物から漏れ出た湿気は結露を起こす前に建物内を駆け巡る隙間風によって乾くので、結果、低気密低断熱でも結露しない家は作れる。と言う建築業者もいますが、真夏と真冬は耐えがたい室内環境の住宅になることには十分ご注意を。
3.高気密高断熱住宅のデメリット
快適性、健康面、金銭面で様々なメリットがある高気密高断熱住宅ですが、果たしてデメリットはどうなのでしょうか?
3.1 高い施工品質が求められるが、その目を養いにくい
当然ですが、高気密高断熱にする為には、材料や工法だけでは実現できません。そこには、それらの性能を最大限活かす知識、技術、配慮のある建築業者である事が求められます。
例えば、外壁内に充填する断熱材を隙間なく設置する、各種の継ぎ目(ホード同士や床と間仕切壁、サッシと壁の継ぎ目など)に所定の気密処理を施すなどです。これらは、実際に見てみると、膨大な量にも関わらず、小さな事なので「たったそれくらい。」と思われそうな仕事です。しかし、決して建て主には分かってもらえなさそうな事の積み重ねを地道に実施できる建築会社でなければ、きちんとした高気密高断熱の性能は発揮できません。
そして、極めつけは例え工事現場を見たところで、本当に高気密高断熱工事がきちんと実施されているのかはそれなりの知識、経験が必要で、一般の方には建築業者の良し悪しは判断しづらいと言う現実です。
3.2 コストが掛かる
これもまた当然ですが、高気密高断熱仕様とする為の材料や工法は、材料自体の価格や工事費が高くなりがちです。
3.3 結露リスクを逆に高める場合がある
実は、建物を高断熱化すると、家中を一定の温度に保ちやすくなりますが、冬季の場合より多くの湿気を保持できることになります。ここで、気密性が悪い場合、この空気が室内の隙間から外壁の内部や天井裏、あるいは床下に漏れ出てしまいます。湿気を気体のまま含んでいた暖かい空気は、漏れ出た外壁内部や天井裏などの冷たい温度によって急激に冷やされ、大量の結露を発生させることになります。結露は長い時間を掛けて、居住者の健康や建物を蝕みます。
これは、そもそも高断熱ではあっても高気密ではない住宅と言えるので、高気密高断熱住宅のデメリットとは言えないかも知れませんが、非常に大切な知識なのでここに揚げました。
3.4 石油ストーブが使えない
もちろん、物理的に使えないとか法的に使えないのではありません。燃焼型暖房設備の内、特に開放型の石油ストーブは二酸化炭素の排出量がダントツに多いので、高気密高断熱住宅で想定している換気量では追い付かなくなる可能性があると言うことです。
建築基準法に定める二酸化炭素濃度は1000ppm(0.1%)以下となっており、これを基準にした換気設備を設置します。しかし、石油ストーブを6畳の部屋で使うと30分程度で約5000ppmと言う高い濃度に達するので、高気密高断熱の家の小さな部屋で石油ストーブを使うのは結構危険と言えます。
4.最後に
ここまで、高気密高断熱のメリットとデメリットについて、建築会社の視点から、まずは抑えておくべき知識を述べてきました。もし、ご興味があれば、実際に高気密高断熱住宅にお住まいの方のブログなども合わせてご覧になると良いでしょう。実生活に即した情報も大切ですからね。
ちなみに、弊社のオーナー様宅では、小さな石油ストーブ1台で延べ床面積40坪のお家の暖房を賄っているケースもあります。この場合は、80畳と言う空間の広さによって二酸化炭素濃度が極端に上昇しないので、適度な換気で十分間に合うと言うことですね。
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高気密高断熱の住宅を建てる建築会社は、残念ながらまだ少数派です。様々な理由で採用しない建築会社の中には、その意味や仕組みを理解せず、「息苦しくなる。」など感覚的な説明で、何となくそれっぽく聞こえる営業話法でお客様を煙に巻く様な対応もみられ、大変残念に思います。
これから先の住宅建築では、既存住宅も含め、高気密高断熱化が欠かせない条件になります。この事は、国の補助金施策にも思いっ切り表れており、大半の補助金が建物の高気密高断熱化を条件とした内容になっていることから見てとれます。
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